東京地方裁判所 平成3年(行ウ)166号 判決 1992年2月27日
千葉県佐倉市新町五〇番地一
原告(選定当事者)
小澤功子
東京都千代田区霞が関三丁目一番一号
被告
国税不服審判所長 杉山伸顕
右指定代理人
佐藤鉄雄
同
仲田光雄
同
河村秀尾
同
上田幸穂
主文
一 本件訴えを却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 小澤美惠子の昭和六三年分所得税について東京国税局長がした充当につき被告がこれに対してされた審査請求を平成三年五月一七日付けで棄却した裁決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 東京国税局長は、小澤美惠子(以下「美惠子」という。)につき被相続人小澤喜一郎に係る相続税の未納税額があるとして、平成二年三月二三日付けで美惠子の昭和六三年分所得税に係る還付金を還付に代えてこれに充当した(以下「本件充当」という。)。
2 美惠子は、平成二年三月二一日死亡した。原告は美惠子の相続人である。
3 原告は、本件充当に対し、同年四月二四日被告に審査請求(以下「本件審査請求」という。)をしたところ、被告は、平成三年一七日付けでこれを棄却する旨の裁決は、以下のとおり違法である。
4 しかし、本件裁決は、以下のとおり違法である。
(一) 本件審査請求において、原告は、東京国税局長が答弁書を長期間にわたり提出しなかったから本件充当は無効である旨主張したが、被告は、本件裁決においてこの点につき判断をしなかった。よって、本件裁決には審理不尽の違法がある。
(二) 右還付金は、成田税務署長が美惠子の昭和六三年分所得税についてした更正(以下「本件更正」という。)が、異議決定により一部取り消されたことにより発生したものであるが、本件更正に対する審査裁決には瑕疵があるから、本件裁決も違法である。
よって、原告は、本件裁決の取消しを求める。
二 請求原因に対する被告の認否及び主張
1 請求原因1ないし3の各事実は認め、同4の主張は争う。
2 被告の主張
原告が本件審査請求において提出した審査請求書等の記載に照らせば、その主張するところは、結局本件更正が違法であるというに尽きるものであり、一方、審査請求の審理における答弁書の提出について期限を定めた法令の規定はなく、答弁書の提出が遅れたことは右審査請求に係る原処分の適否とは法律上関係がないから、被告は、本件裁決において本件充当の適否につき判断したものであって、本件裁決に審査不尽とされる点はない。よって、原告の右主張は失当である。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1ないし3の各事実は、当事者間に争いがない。
二 本件訴えの適否について
1 本件審査請求は、国税通則法七五条三項に基づき、本件充当が同条一項一号の税務署長がした国税に関する法律に基づく処分であるとしてされたものと解される。
そこで、まず本件充当が右の国税に関する法律に基づく処分に当たるかどうかにつき検討する。
(一) 同項にいう「国税に関する法律に基づく処分」とは、同法が行政不服審査法の特別法としての性格を有する(国税通則法八〇条一項)こと等にかんがみると、国と納税者との間の権利義務につき一般的な規定をする法律に基づき、行政庁が公権力の行使としてする行為のうち、法律上納税者の権利義務に直接影響を及ぼすものをいうものと解される。
(二) 同法によれば、国税局長、税務署長又は税関長(以下「国税局長等」という。)は、還付金等がある場合において、その還付を受けるべき者につき納付すべきこととなっている国税があるときは、還付に代えて、還付金等をその国税に充当しなければならないものとされており(同法五七条一項本文)、右の充当があった場合には、同法施行令二三条一項所定の充当をするのに適することとなった時に、その充当をした還付金等に相当する額の国税の納付があったものとみなされ(同法五七条二項)、また、国税局長等は、同条一項による充当をしたときは、その旨をその充当に係る国税を納付すべき者に通知しなければならないものとされている(同条三項)。
これらの規定にかんがみると、同条一項による充当は、納付及び還付の各手続を簡略化するための技術的、政策的考慮に基づき、国税に関する相殺を一般的に禁止した同法一二二条の実質的な例外として特に国税局長等の行政庁にこれをすることを認めたものであって、その性質は対等当事者間で行われる民事法上の相殺と異なるところはなく、これによる還付金請求権及び未納国税債権の消滅の効果も同法五七条一項の要件を具備することによって当然に生ずるものであり、特に行政庁による認定判断が介在するものではないから、右の消滅の効果について公定力が付与されるような性質のものではないと解するのを相当とする。そうすると、右の充当は、行政庁が公権力の行使としてする行為に当たるとすることはできない。
そうすると、本件充当の取消しを求める本件審査請求は、同法に基づく不服申立てをすることができないものをその対象とするものであって、不適法である。
2 そうであれば、仮にそのような審査請求を棄却した裁決を、それ自体に瑕疵があるとして、判決によって取り消し、再度審査請求について審理をさせたとしても、その結果は裁決で審査請求が却下されること以外にはあり得ないから、右のような審査請求を棄却した裁決の取消しを求める訴えは、結局その利益を欠くものというべきである
したがって、本件裁決の取消しを求める本件訴えは不適法である。
三 以上によれば、本件訴えは不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中込秀樹 裁判官 石原直樹 裁判官 長屋文裕)